Children in the ASIA

第2回ベトナム
ベトナムの人口  約7500万
学齢児童(6―11歳)  約1000万
そのうち学校へ
行っていない児童
 約30万人
*資料提供2000年ユネスコ世界教育報告(World Education Report 2000)
多民族の国

日本は単一民族、単一言語の国と言われています。各地方によって、生活習慣、方言など多様ですが、おおむね皆が日本人であり、日本語をしゃべります。ところが、アジアの多くの国は多民族、多言語、多宗教です。シンガポール、マレーシア、インドなどは、いくつかの主要民族があり、異なった宗教と言語の共存が大きな課題です。
今回ご紹介するベトナムは、総人口の90%キン族という多数民族に対して、53の少数民族が、いかに自分たちの伝統や文化を守りながら暮らすか、ということが課題です。この多数民族に対する少数民族という点は、中国やタイの現状もそうですし、日本におけるアイヌ人の状況とも良く似ています(この意味で、日本が単一民族国家というのは正しいとは言えません)。今年の5月、ベトナムのハノイから北にある中国国境の村と、中部の村、そして海岸近くの村を訪れました。いずれも、少数民族を対象とした基礎教育プロジェクトの関係です。これらをもとに、今回は民族と言葉について考えてみたいと思います。

contents


知らぜらる異文化との出会いが満載の大安喜一が歩く現地レポート大奮闘記です。
ライチャウの学習センター

最初に訪れた村は、北部のライチャウ県にあります。対フランスとの戦争での攻防地となったディエンビエンフーから車で約7時間のところのナムルーン村です。私のような部外者には、顔を見ただけではベトナム人と少数民族の違いは外見上わかりません。民族ごとのカラフルな衣装が唯一の目安です。ここでは、ザオ族とタイ族など20の少数民族が暮らしています。
着いた翌日が村に出来た学習センターの開所式でした。日本の国際協力事業団 (JICA) の資金援助で、日本ユネスコ協会連盟がサポートしている「寺子屋」プロ ジェクトの支援により作られたセンターです。日本人の奥川浩志さんが協会連盟のベトナム事務所に駐在して活躍されています。詳しくは、ユネスコ協会連盟のホームページに詳しく載ってますから、そちらを見てください。

<<ユネスコ寺子屋運動>>
http://www.unesco.or.jp/contents/tera/index2.html
ライチャウ ライチャウの子供 ライチャウの学習センター開所式

センターは大人の識字教室や職業訓練が中心ですが、開所式には、多くの子供もあつまりました。写真のチャン君(8歳)とその友達たちの好きな遊びはサッカー。
家でのお手伝いは、水牛の世話や赤ん坊のお守りです。好きな食べ物は?と聞くと、「白いご飯」という答えが返ってきました。

ニンビンの小学校

ハノイから南東に海岸へ向かうと、途中にニンビンという県があります。県の中心から車で約1時間のタクビン村には、3年前に少数民族の分校建設プロジェクトのために訪れて以来、久しぶりの訪問になりました。村の中心にある小学校から山の中に10キロ以上入ったところに出来た分校では、4年生までのモン族の子供が約20人勉強しています。
クラスの中の女の子、
ニンビンの小学校
ニンビンの子供 ニンビンの小学校
ベオちゃんは、4年生ですが、自分の正確な年齢はわからないそうです。いろんな物語が読めるので、ベトナム語の授業が大好きだと言っていました。ハちゃんという、もう一人の女の子もベトナム語の授業が好きで、ほかにダンスと音楽が得意です。ふたりの男の子ジウとドン君はともに10歳、一番のスポーツはやはりサッカー。学校の中では、野菜作りが面白いと言い、家に帰ると水牛の世話と掃除が主な役割だそうです。
4年生を卒業すると、本校まで10キロ以上歩かないといけないので、今、地元の村と政府の間で、学年の増設の話し合いが行われています。


母語と国語

民族それぞれ固有の言語を「母語」といい、生まれてから口にする言葉の意味で、英語ではマザー・タング (mother tongue) と呼びます。これに対して学校で国の言葉として学ぶものを「国語」 (national language) といい、母語と国語が違う人は多民族国家の場合、珍しくありません。
ベトナムをはじめ、多くの国の場合、小学校の低学年を母語で、言葉が確立してから、国語に切り替える方法がとられています。家で使っている言葉と学校での言葉が違うと、授業の中身がまったくわからず、そのために学校をやめてしまうケースが少なくないからです。ただ、いくつか難しいことがあります。まず、教科書などの教材を違った言葉でそろえることは、費用と労力がかかるので、そう簡単には出来ません。また、その地方の言語と国語の両方を使って授業が出来る先生が必要です。
ユネスコでも数年前からこの2つの分野でのサポートをしてきました。教材作りでは、国の標準版の教科書をもとに、その言葉や表現を変えるだけでなく、地元の村の様子をもとにしたイラストを加えます。それに身の回りの整頓、食事の作り方など、 生活に役立つことを多く取り入れます。こういった「身近なことから抽象的なことへ」「知っていることから知らないことへ」という原則は、先生と彼らの指導法にも、あてはまります。そのためには、先生たちが村の習慣などを良く知っていなければなりません。ベトナムでは、村の子供たちの中から教師志望者に奨学金を出して、大学卒業後、村に戻って子供たちの指導をすることを奨めています。また、教員数の不足から、複式学級を採用している学校も多く、これにはユニセフが積極的に援助を行ってきました。


日本でもバイリンガルの必要性が言われ、特に幼児期からの英語教育について議論が盛んです。国際語としての英語を学ぶのと、今回ご紹介したベトナムの少数民族の母語と国語の関係とは、事情はかなり違います。上に述べたように教材や教員の面で外国語学習のような環境が整備されてないこと、それに、母語=民族のアイデンティティーであり、心理的抵抗も少なくない点などです。
一方、母語中心の教育に皆が賛成しているとは限らない、という点がさらに問題を複雑にしています。というのは、就職や経済活動のためには、国語を知っているほうが断然有利なので、もっとそちらに力を入れてほしいとの意見が少数民族の人たち自身から出ているのも事実です。
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